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OTV報道部

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米兵性的暴行事件、なぜ情報提供は遅れた?元県幹部が証言「衝撃を受けた」

沖縄県で2023年12月、アメリカ兵により16歳未満の少女が誘拐され、性的暴行される卑劣な事件が発生した。外務省は事件を把握していたものの、「被害者のプライバシー保護」を理由に沖縄県や市町村に情報を共有していなかった。

事件が明るみとなったのは、発生から約半年後だった。この間に別のアメリカ兵による性的暴行事件も発生していたことがわかり、再発防止の観点からも通報体制の在り方が問われた。

沖縄県の元幹部は「かつては一両日中に政府から県に対し情報提供があった」と証言する。今回、なぜ情報共有はされなかったのか?元幹部への取材を進めていくと、県と政府との間の情報のホットラインに変化が起きていることが浮き彫りとなった。

県内を大きく揺るがした米兵暴行事件 県は報道で知ることに

2024年6月25日、「米兵が少女を誘拐、暴行」という一報が、正午前のニュースで報じられた。各社が一斉に後追いする県内を大きく揺るがすニュースだった。事件は約半年前にさかのぼる。

2023年12月、沖縄本島でアメリカ空軍の兵士が少女を誘拐した上で性的暴行を加えたとして、那覇地検は2024年3月に、この兵士をわいせつ誘拐、不同意性交等の罪で起訴した。

事件発覚後、県の担当部局に事実関係を問い合わせたが「情報は入っていない」という回答だった。県は報道によって事件を把握していたのだ。

玉城知事「信頼関係において著しく不信を招くものでしかない」

同日の夕方、玉城知事が記者会見に応じた。
発生から半年が経過しているにもかかわらず、政府が事件を把握しながらも、県へ情報提供が無かったことについて「不信を招くものでしかない」と憤りを露わにした。

さらに、この事件を含めて2024年5月までに、米兵による性的暴行が5件あったことが判明した。

玉城知事は情報がなければ、「再発防止策を講じようがない」「抗議していたら第二、第三の事件を防ぐことができた」と述べ、県に連絡が無かったことを問題視した。

林官房長官は「関係者の名誉・プライバシー保護」を理由に県に説明しなかったと説明した。また、県警も「事件の性質上、プライバシーの保護のため」として、県に連絡しなかった。

玉城知事は、再発防止の観点からも被害者のプライバシー保護に最大限重点を置いた上でとして、「具体的な地名や状況などを伝えなくても、注意喚起は十分に図ることができる。米軍による事件・事故が発生した場合には、綱紀粛正を呼び掛けることなどの要請も行うことができるので、情報の周知徹底は非常に重要」と述べた。

元県幹部「衝撃を受けた」

2024年7月、県の元幹部が沖縄テレビの取材に応じた。元幹部は基地問題を担当し、県の中枢にいた。今回の事件で県警から県に連絡が無かったことについて「発生してほぼ半年の間、県が知らなかったのは大変な衝撃」と述べた。

元県幹部
「一両日中というか、夜中であっても第一報が来たものです。当然、警察と県の知事部局っていうのは不離一体なんですよ。この種の性質の事件は、人権というものがあって簡単に公表できないという性質がある。それは公務員ならわかるわけで、警察から一報が来た段階で公表できないという制約があれば、それを承知した上で事件の再発防止策を考えることができる」

元県幹部は、「米軍関係事件は大きな社会問題」と強調し、「対処するのが政府や都道府県の役割であり、連絡体制が機能することで役割を全うすることができる」と述べた。

いっぽうで、過去には迅速な情報提供があった県と県警の間に変化が生じたとすれば、「政治的な影響か?」という問いには明言を避けた。

元県幹部
「私は行政面なので、なかなか政治的なことは言えないが、そういう政治的な要素も含めて、なぜ県と県警の間に、齟齬(そご)が生じたかという事を、もう一度、それぞれが自分たちの仕事を洗って検証しなきゃいけないわけです。一時的に国が伝えなかったというようなことでは、恐らくどんどん劣化していくんじゃないかと私は思う」

2024年7月に開催された県議会の米軍基地特別委員会で、県警の安里準刑事部長は「性犯罪など通常は公表しない米軍関係者による事件について、摘発件数を月別の統計資料として県や県議会に提出している」「県から問い合わせがあれば、必要な情報提供を行っている」と説明した。

いっぽう、県からの問い合わせ状況について問われると、安里準刑事部長は「令和6年2月に刑法犯の検挙統計を確認する問い合せ以降、無い」と述べた。
県警が2024年3月に事件を送検して、5月ごろに統計に計上していたが、県は問い合わせていなかった。

こうした状況について、元県幹部は「これまでのホットラインが無くなり、情報ルートの態様が変化したのでは」と推察する。

政府・県警「県への情報提供見直しへ」

7月5日、林官房長官は米軍関係者が関与した性犯罪などについて「可能な限り、県に情報を伝える」と通報体制の見直しを発表した。

その同日、玉城知事は、県警の鎌谷陽之(かまたに はるゆき)本部長と面談し、「公表を控えていた事件についても、那覇地検と相談のうえ、県警から逮捕や送検時に、県に対して伝えてられることになった」と報道陣に説明した。

この見直しについて元県幹部は「ちょっと方向がずれていると感じる」と指摘する。

元県幹部
「誰かが、一番悪いのは政府って話になっちゃったんですね、それで(見直しを)一定の評価をしちゃった。過去に米軍関係者による同様の事件が起きているわけだから、当然、連絡体制なり、それからそういうのを防止する防犯体制なりっていうのができてなきゃいけない。今回は機能しなかった、問題はそこなんですよね。主要メンバーが知らなかった、なんで、このようなことになったかをもっと追求しないといけない」

元幹部「CWTとっても大事」

7月3日、玉城知事は、上京して事件について抗議した際に「米軍人・軍属による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム(以下、CWT)についての開催を政府に求めた。

CWTは2000年10月に設置され、米軍人・軍属等による事件・事故の防止を図ることを目的に、外務省沖縄事務所、沖縄防衛局、在沖縄米軍や、沖縄県、関係市町村並びに関係団体の実務者で構成されている。

2016年に県内で発生した元軍属による女性暴行殺人事件。この事件を受けて開催された2017年4月を最後に開かれていない。
元県幹部は、「CWTは虚心坦懐に話せる場所」と重要性を説く。

元県幹部
「CWTが、米軍VS日本、沖縄、そういう対決の場になっては、やはり効果も、成果も挙げにくいだろうと。共通しているのは絶対に犯罪を起こしちゃいけないと、県民の権利や命が損なわれることがあってはいけないという共通認識の上にどういう努力ができますかと、そういう場にしなきゃいけないんです。私は、CWTはとっても大事だと思っています」

米軍構成員による性犯罪摘発46.6%が県内で発生

沖縄県によると、1989年から2023年までの35年間で、米軍構成員による不同意性交などの摘発件数は全国で88件に上り、そのうち41件が沖縄で起きていて、その割合は46.6%となっている。在日米軍の専用施設の約7割が沖縄に集中しているが故の被害が浮き彫りとなった格好だ。

米軍関係者による凶悪事件は後を絶たず、事件の度に、米軍から謝罪や釈明、そして再発防止策が語られるが、何度も事件は繰り返されている。1997年に日米で合意された、在日米軍の関係する事件や事故に関する通報手続きでは、日本人が巻き込まれた場合、各地の防衛局を通じて県や市町村に通報すると定めているが、今回の事件ではないがしろにされていた。

本来ならばあるべきはずのホットラインにより県は情報を把握し、被害に苦しむ女性へ公的な支援を届けることもできたし、米軍に綱紀粛正を呼び掛けることもできたはずだ。
置いてけぼりを食らい、ただただ時間が経過していったことを残念に思う。

政府は、通報体制を見直しとしているが、「可能な範囲」としていることからも、今後注視していく必要がある。また、政府と県は県民の安心安全な暮らしに繋げてほしい

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