コラム
沖縄の宝と過ごした至福の15時間をおすそ分け!『水どぅ宝』のこと②【平良いずみのよんな~よんな~通信】
編集したドキュメンタリー映像に魂が吹き込まれるナレーション録りの時間。
その時間を味わうためにドキュメンタリーづくりを続けているといっても過言ではないほど、その瞬間がたまらなく好きです。
2022年5月に制作した番組『水どぅ宝』で、語りを引き受けてくださったのは沖縄県出身の名優・津嘉山正種さん(78歳)。ナレーション録りに費やしてくださった時間は、なんと15時間!!!
(通常は1~2時間、長くても4~5時間です)。
それはそれは幸せな時間でした。
沖縄の宝とも言うべき名優と過ごした時間を独り占めするのはもったいないので、ここに書かせていただきます。
真っすぐに人の心に届くものに
今回の番組『水どぅ宝』は、米軍基地由来とみられる水汚染を追ったもの。
県民の健康や命に直結する問題のため、慎重にひとつひとつ「事実」と「データ」を積み上げ、汚染の全体像を浮かび上がらせなければなりませんでした。
元来、楽観的な私も展望が全く見通せず、胃がキリキリしっぱなしで精神的に追い込まれていくのを感じる日々。
それでも……
“県民の知る権利に応えよう”を合言葉に、スタッフ一丸となって約2か月、編集室に籠って映像を繋いではやり直し、なんとかかんとか55分の映像に繋ぎ終えたのでした。
そして迎えたナレーション録りの日。
まずは津嘉山さんに映像を見ていただく。
映像に刻まれたウチナーンチュの怒り、哀しみ。それでもなお前を向く人々の姿を見て、津嘉山さんの眼光はいつも以上に強さを増していきました。
ひと通り見終わって、
「沖縄で生きていく子や孫たちのために、この汚染の問題は伝えなきゃいけない。だから妥協しちゃいけない。でも、番組の後半はデータが多すぎてこのままでは伝わらない。むずかしいことをやさしく伝える、そのために考え抜くのがプロですよ」
とスタッフを鼓舞してくださった津嘉山さん。
息をついてこう続けられた――
「うまい下手じゃない、変化球もいらない、とにかく真っすぐに人の心に届くものにしよう。私は言葉選びを手伝いますから、あなたたちはもう少し構成を練ってください。あす東京へ戻る飛行機の時間を遅らせます。時間はありますから」と。
じんわりじんじん沁みる優しさ
その優しさが、編集で疲れた体にじんわりじんじん沁みました。
その日、津嘉山さんは夜11時まで原稿の手直しに付き合ってくださり、解散。その後、私たちスタッフは必死に構成を練り直しました。
そして、子どもを慈しむお母さんたちの日常と、「水汚染から子どもたちを守ってほしい」と切迫した想いを語るシーンを追加したのでした。
翌朝、疲れもみせずスタジオ入りした津嘉山さんは追加したシーンをみて
「とぉ、上等!」とひと言。
そして、手書きの文字がぎっしりと書き込まれた原稿を手にナレーションブースに向かわれた津嘉山さんに「ありがとうございます!」と頭を下げた私は、いろんな想いが込み上げてきて涙目に。
それをみた津嘉山さん―
「まだ泣くのは早いですよ。プロの仕事はこれから!とぉ、チバラナやーさい!!」と軽やかに仰ってブースに入っていかれました。
「とぉ、チバラナやーさい!!」
その言葉があまりにあたたかくて、やっぱり涙を堪えきれなかったのでした。
なぜこんなにも津嘉山さんのナレーションはすべて包み込む包容力に満ちているのだろう・・・。
お話をする中で、ふるさと沖縄への恩返しと貫いてこられた一念が、声に宿っているからなのだろうと気付かされました。
とても真似できるものではありませんが、少しでも近づきたいと思える大先輩とともに過ごした至福の15時間を私は一生忘れないと思います。
津嘉山さんのナレーション録りを終えてのメッセージもぜひごらんください。
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