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新里 一樹

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沖縄からユニコーン企業輩出へ!縁の下の力持ち「コミュニティマネージャー」とは?

新里一樹 Me We OKINAWA

沖縄県が掲げる「稼ぐ力」をキーテーマにしている本コラム。これまで沖縄のスタートアップ企業にスポットライトを当て、ご活躍の方々にお話をうかがってきた。今回は、スタートアップのエコシステムを構築するために必要な一つの要素「コミュニティ」にスポットライトを当てたい。今回は、一般財団法人沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)にお勤めでコミュニティマネージャーの浦崎共行さんと、押切加奈子さんのお二人にインタビューを申込んだ。

目次

スタートアップを輩出するために必要なコミュニティ

日本や沖縄県のスタートアップを増やすには、起業家マインドを持った人材の育成やそれを生み出す素地を作ることが重要であると、これまでの記事でも紹介してきた。

スタートアップはイノベーションを起こし、前例のないサービスやプロダクト、ビジネスモデルなどによって急成長することが求められる。この急成長を支えるのが投資家、金融機関、自治体、大学や研究機関などだ。それらがコミュニティとして形成されることで、起業家の困りごとに対していつでも相談や支援が受けられるのである。

今回は、沖縄のスタートアップコミュニティを形成するために、日々活動しているコミュニティマネージャーの浦崎共行さんと押切加奈子さんに、スタートアップコミュニティの重要性や、縁の下の力持ちといわれるコミュニティマネージャーのやりがい、実現したい未来について話をうかがった。

コミュニティを支える「コミュニティマネージャー」の役割

――まずはコミュニティマネージャーの役割を教えてください。

押切さん
「私たちは、沖縄スタートアップエコシステム構築事業の担当の一人として、起業家同士をつなげたり、起業家と投資家の間に入って紹介したり、また、互いのコミュニケーションが円滑にいくようお手伝いしています。ほかにも、沖縄のスタートアップを支える機関『Startup Lab Lagoon』のWebサイト運営や、SNSを使った広報活動もしています。」

毎年開催の「Okinawa Startup Festa」でも、人と人とをつなげる役割を担う押切さん
毎年開催の「Okinawa Startup Festa」でも、人と人とをつなげる役割を担う押切加奈子さん

――起業家同士や起業家と投資家をつなぐというのがコミュニティマネージャーの主な役割なのですね。具体的にどのような取組みをして、結びつきを生み出していますか。

押切さん
「slackを使いオンライン上で情報交換できる場づくりと、オフラインでの交流会やイベントによる企画を中心に、コミュニティ形成しながらリアルな人脈につないでいくことをしています。」

――ヒトとヒトとの間に入ってつながりを作り、それを広げてコミュニティを作っていくのですね。これは結構たいへんそうだという印象を持ちますが、実際に現場で取組まれていかがですか。

押切さん
「私の場合ですと、誰彼構わずにつなげているわけではありません。やはりヒトを見極める必要があって、『このヒトとこのヒトがつながれば面白い化学反応が起こりそうだ』とか、これまでの経験から『上手く行きそうだ』という感覚を元につなげています。沖縄県内でビジネスをしているヒトを常にキャッチアップする必要があるので、その点の難しさはあると思います。」

――ヒトとヒトとをつなげ、その輪を広げながらコミュニティを形成していく。そのためにはコミュニティマネージャー自身の人脈作りも必要そうです。人脈を広げる方法やコツはありますか。

押切さん
「私はヒトへの興味関心が強い性格です。もともとヒトとヒトとをつなげたり、事業間でコラボすると面白そうだと思ったものを実際につなげたり、それを繰り返すうちに自然と人脈が形成されていったように思います。それが職業になるなんて思ってもみませんでした。いまは沖縄からスタートアップを輩出するためのエコシステム作りに少しでも役立ちたい、という想いで取組んでいます。」

エコシステムのなかにおけるコミュニティの機能

――スタートアップを輩出するためにはエコシステムが重要だと、以前の豊里健一郎さんのインタビューを通して理解できました。そのエコシステムのなかで、コミュニティ作りというのはどのように機能するのでしょうか?

浦崎さん
「スタートアップって、まだ世のなかにはない価値を創造したり、諦めかけている顧客課題をビジネスのチカラで解決できたりするのが醍醐味です。一人の小さなアイデアでも、ヒトとヒトとがつながって、共有していくことで雪だるま式に膨らんでいく。

そのためには同じような境遇にある起業家や、先輩起業家との結びつき、事業を客観的に評価できる投資家、最新のテクノロジー知見を持った研究機関などに気軽に相談できる環境が重要です。これがスタートアップコミュニティです。

キラリと光るアイデアを具現化していくための”ネットワーク”として、コミュニティは機能すると考えています。」

那覇空港内のLagoon AIRPORTに常駐し、県外向けにも沖縄の企業や人を紹介する浦崎共行さん
那覇空港内のLagoon AIRPORTに常駐し、県外向けにも沖縄の企業や人を紹介する浦崎共行さん

押切さん
「以前、アンケート調査を行ったところ、『ほかのスタートアップと知り合いたい』『起業家同士でつながりたい』という要望が多く集まりました。

コミュニティは、沖縄で同じ境遇にいる同士がつながる場、そして情報交換の場としての役割を持っているんです。CEOだけが参加できる会議を企画したエコシステム支援機関によると、その場でしか聞けないオフレコ情報が多かったようで、参加したCEOたちの満足度は高かったようです。

このような繋がりを生み出せるのは、コミュニティならではだと思います。」

コミュニティマネージャーの資質

――スタートアップのエコシステムには、コミュニティの存在が必要だとよく分かりました。その重要なコミュニティでマネージャーをされているお二人は、これまでどのようなご経験をされて、いまのポジションに就いたのでしょう。

浦崎さん
「僕は、母が経営していた古着屋を継いだところからキャリアが始まっています。いまから20年前の話です。どうしたら自分の店舗や沖縄のアパレル業界が繁盛するだろうと試行錯誤するうちに、『洋服を着て出かけたくなる場所や、オシャレを楽しむ機会を増やせばいいのではないか』という考えに至りました。

そこで那覇市内を中心に洋服屋、美容室、飲食店、アトリエなどを巻き込んで、『SHARE(シェア)』という定期イベントを企画しました。」

――2000年代を学生として過ごしていた若者にとって、SHAREに参加することが当時のステータスになっていました。オシャレでとんがったヒトたちが参加するイベントでした。僕もSHAREに参加するために、背伸びして洋服を買って、前日に散髪して…とやっていました(笑)

浦崎さん
「こっちの戦略にまんまとハマったんですね (笑)

イベントを重ねていくとどんどん人脈が広がったり、僕が知らないところでも、知り合いと知り合いが仲良くなって新しいことを始めたり、というのが次々に出ていきました。SHAREというイベントを通じて輪が広がって、いつの間にかコミュニティが形成されていったんです。

当時はまだコミュニティを深く意識していなかったのですが、ヒトとヒトとが交わることで掛け算的に新しいことが生まれるんだなというのを感じた瞬間でした。」

国籍関係なく、すぐに仲良くなるのもコミュニティマネージャーの素質と思わせる写真
国籍関係なく、すぐに仲良くなるのもコミュニティマネージャーの資質と思わせる写真

――私は、当時からSHAREの主催者である浦崎さんを一方的に知っていました。イベント会場で声をかけてもらったこともあって嬉しかったんです。いまでいうインフルエンサーの先駆けが浦崎さんだったと思っています。

浦崎さん
「ありがとうございます。自分としてはインフルエンサーということは意識しておらず、僕と同じように店舗経営している仲間や若者同士が交流できる場を作ろうと、楽しんでやっていました。なので、実はコミュニティマネージャーがそこから始まっていたことに、いまになってやっと気がついたんです。

僕は『共行(ともゆき)』という名前ですが、イベント名『SHARE』も僕の名前を由来にしています。スタートアップのコミュニティも、ともに進んでいくための装置だと考えると、僕にとってこれが天職なのかもしれません。」

――押切さんはどのようなキャリアをご経験されていますか。

押切さん
「私は出身校が日本大学芸術学部の演劇学科で、みんなで何かを作ることに楽しさを感じていて、特に裏で支える役割が性に合っていました。卒業後はとても迷ったものの、芸の道には進まず、大学卒業後に専門学校で会計を学び直し、事業会社の管理部でキャリアをスタートさせました。

転機が訪れたのはいまから6~7年前。東京の渋谷にあるブックカフェ『BOOK LAB TOKYO(ブックラボトーキョー)』の店長募集を知って応募したんです。」

BOOK LAB TOKYO勤務時代の押切さん(写真右)。この時から現在のキャリアに繋がる事をしていた
BOOK LAB TOKYO勤務時代の押切さん(写真右)。この時から現在のキャリアに繋がる事をしていた

――日本大学芸術学部から管理部へ、そしてブックカフェの店長。異色のキャリアのように感じますが、そのご経験がいまのコミュニティマネージャーとどのようにつながっていくのでしょう。

押切さん
「BOOK LAB TOKYOの店長をしていた頃は、まだコミュニティマネージャーという言葉を知りませんでした。店長をしながら常連さん同士をつないだり、店舗に併設されたイベントスペースを貸し出すため、イベント主催者とのやりとりや相談を受けたりするうちに、『やっぱり私はヒトを支えること、つなげることが好きなんだ』と改めて気づかされました。

その後、縁あって沖縄に引っ越しすることになります。沖縄に来てから間もなくして六本木のawabarが那覇にできるということで、『awabar okinawa』が完成するまでの間、代表社員を任されて店舗開業にかかわりました。いま、このawabar okinawaは経営者や若手起業家が語らう場として、新しいコミュニティ空間となっています。」

沖縄の稼ぐ力向上のために私たちができること

――お二人はそれぞれ違ったアプローチですが、コミュニティを形成するための潤滑油として、いずれも重要な役割を担ってこられたのですね。この先、お二人がコミュニティマネージャーとして実現していきたいことを教えてください。

浦崎さん
「僕は、沖縄の若いヒトたちがもっと起業にチャレンジしやすい環境を整えていきたいです。思い切って飛び込んでもらうには受け皿が必要です。コミュニティはネットワークとしてだけでなく、”ゆりかご”としても機能すると考えています。僕自身はコミュニティマネージャーとして、そんな沖縄のスタートアップコミュニティに入りやすい雰囲気を作っていきたいです。」

押切さん
「私は、スタートアップや起業といったものを超えて挑戦しようとしている方や、一歩踏み出そうとしている方のサポートや応援、伴走することが理想です。awabarの立ち上げの際も、『チバリスト(沖縄方言「チバリヨ―」+ist「○○する人」=頑張る人)が集える場』がコンセプトでした。起業ばかりでなく、自分自身で稼ぐ力が一人ひとりに備われば、沖縄はもっと良くなると思います。私もいろいろな人に声をかけてもらい、挑戦させてもらっていまがあります。これから挑戦するヒトを裏から支えてられる環境を、沖縄で作っていきたいです。」

話しかけやすさ、相談しやすい距離感を大切にしつつ、常に「あの人とあの人がコラボしたら面白そう」と考えている
話しかけやすさ、相談しやすい距離感を大切にしつつ、常に「あの人とあの人がコラボしたら面白そう」と考えている

おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム発足

――先日、おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアムの発足について発表がありましたが、このコンセプトを教えてください。

押切さん
「少し難しく聞こえるかもしれませんが、沖縄の優位性やポテンシャルを活かして、沖縄県の経済の持続的な発展を実現するという観点から、スタートアップ創出は、今、沖縄県においても重要なテーマとなっています。これを実現させる為にも、企業、金融機関、研究機関、大学、行政といった機関が一体となって、アジア有数のスタートアップ・エコシステムを作るというのが目的です」

浦崎さん
「自律的にスタートアップが生まれ成長する環境をつくるためには、各種コミュニティ活動をつなぐHUBとしての機能強化という側面もこのコンソーシアムには含まれています。ますます僕たちコミュニティマネージャーの役割も重要化、複雑化してくると思っています。このコンソーシアムは「日本一リスクを取って挑戦できる環境を創り、アジア有数のStartup HUBを目指す」というビジョンを掲げています。今よりももっと沖縄からチャレンジする人たちが多く出てくることを期待しています。」

――コミュニティの重要性やその機能をうかがうことができ、たいへん有益でした。ありがとうございました。

インタビュー後記

今回のインタビューは難しかった。コミュニティマネージャーという聞きなれない職業への理解から始まり、沖縄県が注力するスタートアップの輩出において、コミュニティがどのように機能しているのかを探る。私自身、沖縄スタートアップコミュニティのslackに参加させてもらい、オンラインでのやりとりを知るところから始めた。

インタビューで聞いた内容や、コミュニティでの受け答えを目にして分かったのは、新しい経済圏を作るためにチャレンジする方々の拠りどころとしてスタートアップコミュニティが存在していることだった。客観的に見れば一人ひとりのチャレンジなのかもしれないが、コミュニティ内の全員で一緒に作っていくという感覚なのだと思う。

そのコミュニティを誰が運営するかが極めて重要で、今回インタビューをさせていただいた浦崎さんと押切さんには潤滑油としての魅力だけでなく、引きの強さ、「吸引力」のようなものを感じている。お二人がいる限り沖縄のスタートアップコミュニティは明るい。そして、いつか沖縄のスタートアップコミュニティから、評価額10億ドル超のスタートアップ「ユニコーン企業」が誕生するのを期待したい。

次回は、Web3のスタートアップとして、沖縄を離れて東京でご活躍する金城辰一郎さんに、いまさら聞けないWeb3とは何か、これからどのように社会に実装されていくのか、その可能性をうかがう。

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