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「平和の島として再生されなければいけなかった」沖縄返還交渉の密約を暴いた元記者・西山太吉さんが遺した言葉

沖縄の本土復帰を巡り、当時の日米で交わされた密約を暴いた元毎日新聞記者の西山太吉さんが2023年2月24日に亡くなった。国民を置き去りにする密約が生まれた背景を紐解き、西山さんが問い続けた日米関係のあり方を考える。

沖縄の本土復帰50年を記念し、記念式典が開かれた2022年5月15日。
沖縄テレビの取材班は、毎日新聞の元記者で2023年2月24日に亡くなった西山さんの自宅を訪れた。

よく考えて沖縄返還を見つめ直さないと何の意味もない

沖縄の本土復帰前の1971年、外務省キャップだった西山さんは日米の沖縄返還協定でアメリカが支払うとされた軍用地の原状回復費400万ドルを日本が肩代わりする密約をスクープした。

毎日新聞元記者 故・西山太吉さん
「1972年までにどうしても沖縄を返してくれなきゃ困るという事になります。そういう政治状況の中で、アメリカは「しめた」と逆にそろばんをはじいたわけです」

沖縄返還の実現を政策に掲げ自民党総裁選を勝ち抜いた、時の総理大臣・佐藤栄作。

佐藤栄作首相(当時)
「沖縄の復帰が実現しない限り、我が国にとって戦後が終わっていないことをよく承知しています」

任期中にどうしても返還の道筋をつけたい佐藤政権。
沖縄県民が望んだ本土復帰は、日本政府の事情につけ込んだアメリカ政府の思惑通りに進められることになった。

毎日新聞元記者 故・西山太吉さん
「そういう背景が沖縄返還にはあるんです。アメリカが最大限に利用したわけです」

"公文書"が存在するも政府は否定

アメリカの情報公開制度で密約の存在を明るみにした琉球大学の我部政明教授は、密約の背景には国民や野党の追及を避け、政権を維持したいという思惑があったと指摘する。

琉球大学 我部政明名誉教授
「アメリカのためにカネを払う事が知られると政権が維持できなくなり、国民の反対にあうんじゃないかと思われたのだと思います」

我部教授が入手したアメリカの公文書は軍用地の原状回復費用のほかに、アメリカ政府のラジオ局の移設費1600万ドルや、基地の改善移転費6500万ドルなど国民の血税が秘密裏にあてられていたことを記すものだった。

密約を裏付けるような公文書の存在が明るみになった今も、日本政府は存在を否定している。

琉球大学 我部政明名誉教授
「問題は政府が対米交渉の内実を公にはしないまま、また議論にしないまま来たという事実です。そのことへの反省、あるいはそれに対する検証がされないと、再び起こるかもしれません」

日米同盟を重視 米国のできないことを日本が支えた

政権の維持と日米同盟を重視するあまり、国民を置き去りに進められた対米交渉。

アメリカに追従しているかのような姿勢は、あれから50年が経った今も続いていると我部教授は指摘する。

琉球大学 我部政明名誉教授
「アメリカとの同盟の強化という言葉で政府同士深めていき、深化というようなことを日米間でやってきたわけです」

2016年、政府は集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法を制定。

海洋進出を強める中国を念頭に南西諸島の自衛隊を増強し、日米の軍事一体化をさらに推し進めようとしている。

琉球大学 我部政明名誉教授
「『アメリカのできないというところを日本が支えたよ』という事によってアメリカが日本に関心を持ち続けるだろうし、アメリカが日本のために何かしてくれるに違いないです。 日本はアメリカの要望に応えるために官僚レベルで詰めてきたことが、一つ一つ進んできたという事です」

沖縄は米国の戦略体系の中に 戦争への準備の島に

西山さんは外務省の職員から機密文書を入手したとして、1972年に国家公務員法の容疑で逮捕・起訴され有罪判決を受けた。

毎日新聞元記者 西山太吉さん(当時)
「私は言論の自由を守るために戦ったと思います」

県民の4人に1人が犠牲となった戦争を経て、アメリカ軍に土地を強制接収され基地の島となった沖縄。

広大な基地が今も残る中、政府は日米で合意した普天間基地の辺野古への移設を頑なに推し進め、県内移設に反対する沖縄県民の声を顧みることはない。

沖縄に重い基地負担を強いる政府を厳しく糾弾してきた西山さんは「沖縄は平和な島として再生されなければならなかった」という言葉を遺し、この世を去った。

毎日新聞元記者 故・西山太吉さん
「平和な日本のシンボルであるべき沖縄が、アメリカの戦略体系の中に戦争への準備の島になったという事です。沖縄に日本の姿が全部映し出されています」

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