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「私の闘病の記録が役に立てば」42歳でスキルス胃がんと診断された女性の思い 前編
42歳でがんと診断された女性。
自身の闘病の記録が、誰かのための役に立てばと取材に応じてくれた。
「私は負けず嫌いで、転んでもただでは起きない」
「愛する子どものために頑張らなきゃいけない」
病と向き合う率直な思いを聞いた。
半年前から食が細くなり胃カメラの検査
豊見城の総合病院・友愛医療センターに入院することになったユッキーさん。
東京に本社を構えるIT企業に勤務している42歳で、夫と6歳の息子の3人家族だ。
仕事柄、自身のブログも立ち上げていて、なかでも全国の飲食店の情報を発信するグルメサイトは多くのフォロワーもいる。
食べることが何よりの楽しみだったユッキーさんだが、半年ほど前から食が細くなったことを気にかけて、2023年3月に近所のクリニックで胃カメラの検査を受けた。
ユッキーさん
「病理検査に出しますということで細胞をとられました。胃がんの可能性やリンパ腫の可能性、あるいはピロリ菌でちょっと炎症がひどいことは考えられますと…」
不安を抱えて過ごす日々 最も気にかけていたのは…
胃カメラの鎮痛剤の影響で、その時は事態がうまく整理できていなかったが、鎮痛剤が抜けて冷静になった途端に絶望感に襲われたと振り返る。
「もしがんだったら…」
検査の結果が出るまで不安を抱えて過ごす日々、最も気にかけていたのは4月に小学校に入学する息子のことだった。
ユッキーさん
「きょうこの時間、子どもとどう楽しく過ごすのか、とか、私が残りの時間でこの子に何を教えられるか、みたいなことはやっぱり考えちゃいました。明日死ぬかって言ったらそうでもなくて、少しは時間が残されているから、そこをどう有意義に過ごすかみたいなところはすごく考えましたね」
胃カメラの検査からしばらくして、がん細胞が見つかったことが知らされた。
ユッキーさん
「逆にすっきりしましたね。覚悟は決まったというか。もう早く結果が知りたかったです。じゃないと前に進めないので」
知人の医者の勧めもあって、友愛医療センターで手術・治療を行うことを決める。初診から8日後に入院し、翌日に手術する日程が決まった。
ユッキーさんが入院した日の午後、医師たちは手術に向けたミーティングを開いていた。
初診から9日後に手術へ 異例の速さの理由
友愛医療センター消化器病センター センター長 二宮基樹 医学博士
「ごっそりきちっと取ります。だから逆に言えば必要なものをきちっと出して残し、それ以外は全部取るというのが郭清(かくせい)です」
手術は胃を全て摘出することが示された。執刀するのは二宮基樹(にのみや もとき)医師。日本胃癌学会会長を歴任した胃がんのエキスパートだ。
友愛医療センター消化器病センター センター長 二宮基樹 医学博士
「スキルス(胃がん)のなかではかなり早く見つかりましたので、絶対に治すという気構えで正確なリンパ節郭清を、合併症を起こさずにやりたいと思います」
二宮医師が初診から9日という異例の速さで手術を決断したのは、スキルス胃がんであると診断したからだった。通常の胃がんとは何が違うのだろうか。
友愛医療センター消化器病センター センター長 二宮基樹 医学博士
「スキルス胃がんは、発見された段階で4分の3はもう(他にも)散ってしまっています。それぐらい恐ろしいがんですので我々はもう、一刻、1週間の遅れも気にするぐらいです。内視鏡下生検で確定診断がつかないことも多く、診断が難しいです。これがもう一番成績を悪くしている根源ですね」
医師が恐れる非常に厄介ながん スキルス胃がんとは…
通常、胃がんは胃の粘膜にがん細胞ができるが、スキルス胃がんは粘膜の下をはっていくことが多いため、内視鏡検査でも診断がつかない場合が多いという。さらに進行性も早く、見つかった時点で転移している恐れがある。
見つかりにくいがんとされているにもかかわらず、なぜすぐに診断できたのか?
それには奇跡的な偶然も味方した。
友愛医療センター消化器病センター センター長 二宮基樹 医学博士
「1個だけ潰瘍があったんですよ。内視鏡医が見事にその潰瘍周辺を狙って、バリアとなっている粘膜が除かれた部分を生検されました。見事に下に潜んでいたがん細胞をちゃんと当てたんですね」
「私はがんになったから不幸だけど、人に恵まれている」
2023年4月20日の手術を前になぜ取材を受けてくれたのか、ユッキーさんが思いを明かした。
ユッキーさん
「私はがんになったから不幸ですけど、そのあとはすごくついていて、人に恵まれています。けれどもスタートは、自分に違和感があったことです。今回は比較的にスムーズに(自分で)病院に行って(胃がんが)見つかりました。そして今ここに座っていられます。若い世代のがんは進行が速いとよく聞くので、少しでもそういう人を減らせないかなと思っています」
自分の経験が誰かの役に立ち、がんの早期発見に繋げてほしい。込み上げてくる思いは自身のがんに打ち克ってやるという決意にも聞こえた。
取材に協力してくれた友愛医療センターでは、2020年から2023年4月までに全ての胃がんに占めるスキルス胃がんの症例は18例ある。割合でみると9.7%だ。スキルス胃がんは進行した状態で見つかるケースが多く、二宮医師は非常に厄介ながんだと強調する。
がんの早期発見につながるのが定期健診だ。この3年間、新型コロナの影響によって定期健診を受けていなかったり、体に不調があっても受診を控えるケースが目立ち、進行した状態でがんが見つかるケースが増えていると指摘する。
友愛医療センターがまとめたデータによると、胃がんにおける手術ができなかった事例は2020年が14.7%、2021年が11.1%、2022年が20.3%となっている。
胃がんは基本的に自覚症状がないが、定期健診で見つかる可能性は高く、二宮医師は定期健診の重要性を強調するとともに受診を呼び掛けている。
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