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長嶺 真輝

長嶺 真輝

小柄ならではのスタイルで“下剋上”を狙う日本代表 格上倒す鍵は「3P成功率40%」にあり | バスケW杯(FIBAバスケットボールワールドカップ2023)

バスケW杯(FIBAバスケットボールワールドカップ2023)
多くのファンに迎えられ、開催地の沖縄に入ったバスケットボール男子日本代表=8月22日、那覇空港

FIBA男子バスケットボールワールドカップ2023(以下、W杯)が8月25日、沖縄アリーナなどでついに開幕する。県内各地の建物や交通機関がW杯仕様に“ドレッシング”され、22日までに沖縄で予選ラウンドを戦う8カ国全てが来県したことで本番ムードが一気に高まってきた。
 
肝心の日本代表(FIBAランキング36位)は、15〜19日に東京であった三つの国際強化試合でエースの渡邊雄太(NBAフェニックス・サンズ)や主将の富樫勇樹(千葉ジェッツ)、昨シーズンのBリーグMVPである河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)など最終12人の登録メンバーを決定。15日のアンゴラ戦で右足首を負傷して以降、プレーしていなかった渡邊も練習に復帰し、今は本番に向けて最終段階の仕上げに入っている。

グループEに入った日本は一次ラウンドで25日にドイツ(FIBAランキング11位)、27日にフィンランド(同24位)、29日にオーストラリア(同3位)と対戦する。各国とも有力なNBA選手を抱える格上の相手であり、勝利へのハードルは極めて高いが、「スピード」と「スリーポイント(3P)」を重視する日本のバスケは“ハマ”れば「下剋上」の可能性を秘めるスタイルだ。金星を挙げるためには何が必要か。展望する。

“アナリティックバスケ”って何?

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トム・ホーバスHC(中央)と12人の日本代表メンバー

日本代表を率いるトム・ホーバスHCが掲げるのは「アナリティックバスケットボール」である。スタッツや選手の動き方を細かく分析し、より効率的な点の取り方などを追求する戦術だ。

オフェンスに関して最も重視するのは、先述の通りスピードと3P。攻守の切り替えをできるだけ速くして攻撃回数を増やし、主に選手5人がスリーポイントライン付近にポジションを構える「5アウト」の陣形で3Pを多投する。

W杯に出場する国の中では稀有なスタイルだが、なぜ日本はこの戦術を採用しているのか。答えは簡単。日本が世界の強豪に比べて「小柄」だからである。

日本の最終メンバーに残った12人の平均身長は192.1cm。200cm以上の選手は4人のみで、最高は帰化選手であるジョシュ・ホーキンソンの208cmだ。例えば、日本が一次ラウンドの3試合目で対戦するオーストラリアは8人が200cm以上あり、出場各国には極めて身長が高いことを象徴する「7フッター」(7フィート=約213cm)と呼ばれるプレーヤーも多い。

ビッグマンがひしめくインサイドでの勝負では分が悪いため、オールコートで相手がディフェンスに戻る前にオフェンスを仕掛けたり、高さのミスマッチをある程度帳消しにできる3Pを多く打ったりして対抗するという訳だ。そのため、日本代表はビッグマンも含め、機動力の高く、3Pを得意とする選手が多い。

強化試合は“3P20%台” 富樫「自信持ってプレーしないと」

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ポイントガードとして日本を引っ張る“ダブルユウキ”こと(左から)河村勇輝と富樫勇樹主将

ただ当然ではあるが、この二つのポイントを世界の強豪相手に遂行することは容易ではない。本番と同様に格上という意味で、17日と19日に東京の有明アリーナで行ったフランス(FIBAランキング5位)とスロベニア(同7位)との試合を例に、日本がどれだけ自分たちのやりたいことを体現できているのかを考えてみる。先に結果だけを記すと、フランス戦は70ー88、スロベニア戦は68ー103でいずれも敗れている。

まず「スピードを使って攻撃回数を増やす」という部分に関しては、フランス戦は70本対64本で相手を上回り、スロベニア戦は71本対73本でほぼ同等。世界トップクラス相手でも、ある程度の成果を出せていると見ていいだろう。

問題は3Pである。フランス戦は富樫が5本、チームNo.1の名手である富永啓生(米ネブラスカ大学)が4本を決めたが、全体の成功率は29.5%(44本中13本)。スロベニア戦に至っては引き続き富樫が3本を決めて安定感を見せたが、全体では21.7%(46本中10本)まで確率が低迷した。

日本が目標に掲げる「40%」を沈めていたとしても、日本はいずれの試合も僅差で敗れてはいたが、3Pが高確率で決まると攻守に勢いが生まれるため、勝利につながる可能性が格段に上がることは間違いない。

スロベニア戦後、コート中央でマイクの前に立ったホーバスHCは「速いペースで、外のシュートが入らないと大変。うちのバスケをまだやっていない」と苦言。富樫も「W杯前最後の試合でなかなか外のシュートが入らず、リズムに乗れなかった。反省が多かったけど、自信を持ってプレーしないといけない」と気を引き締めた。

シュートに限っては「こうすれば入る」という正解はないが、ギャンブル的な要素が強い日本のスタイルでは3P成功率の低迷はそのまま負けに直結する。逆を言えば、高確率であれば世界トップクラスの国とも十分に渡り合うことができるのだ。ホーバスHCが2021年の東京五輪で女子日本代表を率い、似たような戦術を用いて日本の過去最高成績となる銀メダル獲得に導いたことも記憶に新しい。

最大の目標は「パリ五輪出場権」 アジア6カ国でトップに

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日本にとっては“ホームコート”となる沖縄アリーナ

今大会、日本の掲げる目標は2024年のパリオリンピックの出場権を獲得すること。その条件は、W杯に出場する日本、イラン(FIBAランキング22位)、中国(同27位)、ヨルダン(同33位)、フィリピン(同40位)、レバノン(43位)のアジア6カ国の中でトップになることである。

日本は一次ラウンドの成績に関わらず、その後に同じく沖縄アリーナが会場となるグループFの国とあと2試合を行い、最低でも計5試合を戦う。一次ラウンドで強豪から一勝でも挙げることができれば、チームに勢いをもたらし、それぞれ別々のグループに入ったアジアの国にもプレッシャーを掛けることができるため、なんとしても早い段階で金星をつかみたい。もし今大会でパリ五輪の出場権をつかむことができれば、日本男子が自力で五輪出場権を獲得するのは1976年のモントリオール五輪以来、実に48年ぶりの快挙となる。

繰り返しになるが、そのための必須条件が3P成功率の向上だ。沖縄アリーナという“ホームコート”に詰め掛けるであろう多くのファンの声援を力に変え、破壊力バツグンの長距離砲を高確率で射抜くことができるか。日本バスケ界の歴史を変えるための壮大な挑戦が、国内随一のバスケ熱を誇る、ここ沖縄で幕を開ける。

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