コラム
ウークイの日に向き合えた大切な人との思い出【平良いずみのよんな~よんな~通信】
目次
ウークイはビッグイベント
きょうは、お盆の最終日ウークイ。
子どもたちの学校が夏休み明け3日目にして休みになるなど、沖縄にとってウークイはビッグイベントなのです。
昨秋、母が他界して迎えた今年のウークイは、わが家にとってもビッグイベントになりました。事前に重箱をスーパーで注文。家族全員の好物であるターンムディンガク(田芋田楽)だけは、鍋でコトコトと煮て、準備万端。
ウークイ当日、三枚肉にカマボコ、クーブ(昆布)がぎっしり詰まった重箱をお供えしたその横には、鮮やかな黄色のウチカビ(あの世のお金)も、ちゃんと用意しました。
ウチカビ「持たせ過ぎにご注意!」
最後まで親不孝だった私たち姉妹は、母の旅立ちの時、ウチカビを入れ忘れ…、半年ほど経った頃、ふいに姉が「あいっ、ウチカビ持たすの忘れたぁ~」と素っとん狂な声を出して、その親不孝を笑い合ったのでした。
なので、お盆にはしっかりウチカビを用意。たくさん持たせるぞー!と張り切っていたら、先日、某テレビ局の番組『〇ランチ』(ローカルな話題満載で、自社の『ひーぷーホップ』と共に週末の楽しみ)の特集で、「ウチカビの印ひとつで、なんと20万円!よって一枚で2千万円になる。持たせ過ぎにご注意を!」と教えてくれたでした。はい、気を付けます!ということで、3枚だけ燃やしてウートートー。まんまるお月様の下、みんなで母との思い出話に花を咲かせたのでした。
大切な人・母との記憶
ここで、備忘録として母との最期の時のことを書き留めさせてください。
2年前の秋、がんのため「余命4か月」と宣告を受けた母。残された時間をどう過ごしたいか聞いたところ、「ヨガ教室を続けたい」との答え。40年間、ヨガ講師を生業としてきた母は、常にどうすれば生徒の皆さんが健康を保てるかを考え、夜なべしてオリジナルの健康グッズを作っていました。とても小さな営みだったかもしれませんが、社会の片隅で人のお役に立ちたいと精一杯生きたその背中は私の目にはとても大きく映ったのでした。(医者の不養生ならぬ、ヨガ講師の不養生でしたが…笑)
そんな母の口癖は、「どんな小さなことでもいいから、人のお役に立つ仕事をしなさい」ということでした。
亡くなる4日前、もう起き上がることも難しくなっていた母が突然、台所に立つと言ってきかない。姉と二人がかりで立ち上がるのをサポートし、何とか歩行器に体を預け台所へ。何をするのかと思ったら、たっぷりのバターをフライパンで熱して、鮭とおにぎりを焼き出しました。10分ほどかけてじっくりとおにぎりを焼いた後、「お腹すいたでしょ。はい、どうぞ」と母。
「も~う、転倒したらどうするの!?」とついつい憎まれ口を叩いてしまった私に母は「あ~、久しぶりに人の役に立てた。嬉しい~」と満面の笑みを浮かべていました。
迷いながらも仕事に向かう
その翌日、母の状態を考えると迷いはあったものの、私は取材のため東京へと飛びました。
どうしても取材したいことがあったから…。
それはずっと追っているPFAS(有機フッ素化合物)による汚染ついて。
7年前、沖縄では県民に供給される水道の水に汚染物質・PFAS(有機フッ素化合物)が含まれていることが発覚。汚染源が米軍基地内である可能性が高いとされるも「日米地位協定」が壁となり調査すらままならない状態が続く。健康に影響はないのか…、子どもたちに害はないのか…。県民の不安は募るばかり。そんな中、行政の動きを待ってはいられないと市民が立ち上がり、血中濃度検査を実現させました。その結果を国に報告し、国の見解を問うヒアリングを行う重要な局面でした。あわせて、沖縄と同じく米軍基地を抱える横須賀で判明した汚染水の漏出についても取材しなければと、現地へ向かったのでした。
2日間の取材を終えて沖縄に戻った時、すでに母の意識はなくなっていました。
あの日のこと
そして、去年11月末。
空が青い日、母は天国へと旅立ちました。
亡くなる4日前、あの焼きおにぎりを頬張りながら私は母に「ありがとう」を伝えられたのか…、最期に交わした言葉は何だったんだろう……。この数か月、記憶をたどるも、どうしても思い出せない……。
でも、あのおにぎりの美味しさ、「人のお役に立てた」とクシャと笑った母の笑顔は瞼に焼き付いています。
その思い出だけで十分なのだと、ウークイの夜にウチカビを燃やし立ち昇る煙をみて心の底から思うことができたのでした。
大切な人を失っても、つづいていく…
「人」のお役に立つ仕事を。
その言葉を胸に、微力ながら自分に出来ることを探しています。
先月、PFAS汚染の解決の糸口を求めて、アメリカへ渡りました。
解を求めて向かったはずのアメリカで目の当たりにしたのは、想像を絶する事態、過酷な現実。
悲しく巨大な被害を目にして、正直、ひるんでしまう自分がいたのも確か。
「人」のお役に立ちたいと思ってきたが、その「人」って誰のことなのだろう…と不安に駆られる。
そんな時、取材で出会った市民や研究者が語ってくださったのは・・・
「次世代のために、今すぐ行動を起こすべき」ということ。
彼らの目に映っている「人」とは、次世代を生きる人、すなわち子どもたち。
私も、子どもたちのために、ひるんでいる暇はない。
アメリカ取材で入手した膨大な資料、
30時間を超えるインタビュー。
しかもすべて英語。
お伝えするために、やらなければならないことは山積みです。
さあ、ウークイで家族とウサンデー(お供え物をみんなでいただくこと)して、大切な人を失った記憶とちゃんと向き合えたところで、気合を入れてコツコツと積み上げていくぞー!
見上げると、きょうも青い空。視界良好です。
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