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琉球ゴールデンキングス

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“サイクル”の楽しさと、芽生えた「危機感」と… #14 岸本隆一<下>

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心の置き所が迷子になっていた。ボールをついてたら、落ち着いてきた

 優勝から1〜2週間くらいはイベントに出たり、まわりの人たちから「おめでとう」と言ってもらったりして、ずっとフワフワしている感じだった。自分でもちょっと落ち着きがないと自覚していた。毎年のオフのようにしっかり家族と一緒に過ごしてるわけでもなく、しっかり練習してるわけでもない。その状態が嫌だったわけじゃないけど、心の置き所が迷子になっていた。

 少し話は逸れるけど、その時に朝ごはんで味噌汁を作るようになった。これまでは全く料理をしなかったから、僕の中ではかなり大きな出来事だった。試合や練習の緊張感が急になくなって、ダラダラ過ごそうと思えばできるけど、それだと落ち着かない。エネルギーもあり余っていたんだと思う。

 そんな時、初めはあまり前向きではなかったけど、他のメンバーよりも早く練習を始めてみた。そしたら、少しずつ心が落ち着いてきた。オフに一人でボールをついてる時はチームのためにこれをやるとか、「これをやって」と言われることもない。

 「自分はこうなりたい」

 「こんなことも、あんなこともできる」

 そう思いながらボールを触ってる時が一番好きだ。それを続けてたら、穏やかに日々を過ごせるようになった。優勝しても、優勝できなかったとしても、また新しい目標ができて、次のシーズンに向けて準備して、前に進んでいく。大きな話で言えば、それが人生だと思う。そのサイクルが習慣付いていて、自分はそれが好きなんだということに気付くことができた。

芽生えた感情は「危機感」。連覇が難しいからこそ、なおさらやってみたい

 この間に気持ちの変化や気付いた事はいろいろあったけど、気持ちだけであれば優勝から1週間後くらいには「また優勝したい」と思っていた。「自分にもまだまだこんな欲があったのか」と驚いた面もあった。優勝は頭のどこかでミッションみたいに考えていたけど、そうでもない。結局は楽しいから、好きだからバスケをやっていて、その先に優勝という目標があり、連覇がある。

 例えば学校の運動会がその感覚に近い。運動会はミッションじゃないけど、本番に向かってみんなでいろいろ頑張って準備をして、その結果、楽しかったり充実感があったりすると、もう一回やりたくなる。

 連覇が難しいからこそ、なおさらやってみたいとも思う。もし達成できたら、これまでとは違う感情が湧いてきたり、違う価値観が自分の中に広がったりするかもしれない。そういう思いがあったからか、優勝から3〜4週間が経ってから芽生えた感情は「危機感」だった。

「石の上にも三年」というけど、それを1年でやろうとしないと成し遂げられない

 キングスもbjリーグ時代に4度優勝し、その内の2度は僕も経験したけど、まだ連覇をしたことはない。今振り返ってみると、優勝した次の年が一番大変だった。優勝したことでみんなが自信を持ち、それぞれに新しく取り組みたいことが出てくる。僕の経験上、そういう状況の中でなかなかチームとしてまとまれないケースもあった。

 成功体験をした後だからか、うまくいかない事も放っておきやすくなってしまう。本来、チームづくりはうまくいかない事に対してみんなが必死になって、考えて、行動して、やっといいものが生まれていくという作業なはずなのに、「いつかまたいい流れが来るでしょ」という感覚に陥りやすい。そうすると、少しずつチームメートの関係性がおかしくなっていく。

 その意味で、今シーズンは昨季のメンバーが多く残っていることは間違いなく前向きな要素ではあるけど、その分の難しさは絶対にあると思う。

 誰かの名言で聞いたことがある。「石の上にも三年」と言うことわざがあるけど、それを1年でクリアしようとしない限りは求める成果は得られない、と。優勝した後だからこそ、うまくいかない事を放置せず、課題解決に費やす時間を縮める、近道をしようとする努力をしないといけない。

 そのために必要なことは、やっぱりコミュニケーションだと思う。それぞれが持ってるコミュニケーションの取り方があるから、感情的になることも一つだし、冷静さを持って話すのも一つ。譲れない部分は言うべきだし、自分が犠牲になれると思う部分があれば、それをやればいい。言語化が難しい部分ではあるけど、それぞれが個人として独立してる部分と、周りを尊重する部分を自身の中で共存させないといけない。

結果的に、見ている人に何かを感じ取ってもらえればうれしい

 自分たち選手は大前提として、応援してくれる人たちがいるからプレーできる。社会貢献も大きな存在意義だ。もちろんそれが最優先事項だけど、近年は「自分がどうしたいのか」ということもそれと同じくらい優先的なことになってきた。

 自分が納得してプレーして、練習して、生活して、結果的に誰かを元気付けることができたらいい。考え方の順番が変わってきた。コートで結果を残すことで、自分もチームもどこまでも成長させていける。昨シーズンの振り返りでも触れたが、自分のことにもっともっと集中すべきだと思う。

 チームとしてこれがいいと思うことがあれば、やっていくべき。うまくいかない時期は周囲から不安の声とかも聞こえてくるけど、信じてやり続けることが大切。少し傲慢に聞こえるかもしれないけど、自分やチームにとってのオリジナルをつくり、より大きな価値を生むためにはそれも必要だと感じる。繰り返しになるけど、それで結果的に見てる人が何かを感じてくれたら、僕はうれしい。

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#14 岸本隆一

1990年5月17日生まれ。沖縄県出身。キングス一筋12シーズン目。代名詞ともいえる3ポイントシュートと鋭いドライブを武器にキングスを牽引し続ける。背番号「#14」の由来は兄が「#13」をつけていたのでその次の「#14」にした。

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