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長嶺 真輝

長嶺 真輝

「勇気と感動を」ハンドボール男子日本代表主将・東江雄斗 “東京五輪”の涙を糧に、“パリ五輪”で高みへ

琉球コラソン
ディフェンス網の間を割ってシュートに行くジークスター東京の東江雄斗=21日、沖縄県立武道館(長嶺真輝撮影)

日本ハンドボールリーグ(JHL)男子4位のジークスター東京に所属し、日本代表でキャプテンを務める東江雄斗(30)=浦添市出身、神森中学校ー興南高校ー早稲田大学出身=が21日、故郷に凱旋した。JHL11位の琉球コラソンと沖縄県立武道館で対戦し、26ー23で勝利。自身はチームトップタイの4得点を記録した。

東江は現在、今夏に行われるパリ五輪に向け、JHLのリーグ戦と並行して代表活動にも注力している。

筆者は東江が日本代表「彗星JAPAN」でオフェンスの司令塔を務めた2021年夏の東京五輪の際、新聞記者としてハンドボール会場だった東京の国立代々木競技場第一体育館で全試合を取材した。東江は開幕直前に負った怪我の影響で初めの2試合は不出場。その影響もあってか、チームは1勝4敗で予選ラウンド敗退を喫した。

「目標のベスト8に行けなくて悔しいです」
「このチームで1勝できたことは誇りです」

1988年のソウル五輪以来、日本代表男子が33年ぶりにオリンピックの舞台で勝利した最終戦のポルトガル戦後、体育館内の通路に設置されたミックスゾーンで涙を拭いながら取材に答える姿は今も鮮明に覚えている。誇らしさや周囲への感謝も口にしたが、その涙のほとんどは「悔しさ」から溢れてきているように見えた。

東江のプレーを会場で取材するのは、それ以来だった。

変わらない“高い攻撃力” 要所で得点、アシスト重ねる

琉球コラソン
飛び上がりながら味方にパスをさばく東江

約2年ぶりとなった地元でのプレー。相手の琉球コラソンは父の正作氏が監督、兄の太輝がキャプテンを務める縁の深いチームだが、試合後に「家族としての思いというのはあまりなく、意識せずにプレーできました」と語り、気負いはなかった。

試合開始からコラソンに2点を先行されたものの、先発でコートに立ち、バックプレーヤーとして自ら左45度を割って得点を決めたり、ディフェンス網の一瞬の隙を突いてポストにアシストを送ったりしてオフェンスをけん引した。後半に一時3点差まで詰め寄られた場面でも華麗なステップでディフェンスを崩して右45度からシュートを決めるなど、要所で存在感を発揮した。

シーズン最優秀賞や得点王など、毎年のように個人タイトルを獲得していた大同特殊鋼時代に比べ、2021年に“スター軍団”のジークスター東京に移籍して以降、JHLでは若干チームでの存在感が薄まっていた。しかし、この試合では自ら貪欲に攻める姿勢を貫き、持ち味である高い攻撃力が健在であることを示した。

試合の前後には、興南高校時代の恩師である黒島宣昭氏など客席の知り合いとコミュニケーションを取る場面も多く見られ、リラックスした様子だった。

「地元で試合ができる喜びは格別です。今日もたくさんの小学生、中学生、高校生が見に来てくれました。もっと沖縄の子どもたちのお手本になるような存在になっていかないといけないなと思いました」と語り、故郷での試合でより力が入ったようだ。

「怪我しないことが第一」メンタルの成長も

琉球コラソン
琉球コラソンの監督を務める父の正作氏(左)と東江

試合後に太輝と2人で臨んだ記者対応では、パリ五輪についても話題が及んだ。

日本代表は、東京五輪は開催国枠での出場だったが、パリ五輪は昨年10月にあったアジア予選で優勝し、ソウル五輪以来36年ぶりに自力で出場権を獲得。若手の活躍も目立ち、3年前に比べてチーム力が底上げされていることは間違いない。キャプテンとして本番でのメンバー入りは濃厚だが、チーム内競争の激化もあり、意気込みを問われた東江はこう答えた。

「パリオリンピックに向けてこれから選考合宿が始まるので、まずは怪我をしないというところが第一。怪我に気を付けて、しっかりメンバーに残れるようにやっていきたいです」

前述のように、前回の五輪では本番直前に怪我をした苦い経験もあるため、コンディション調整に対する意識は高いようだ。

プレー面では相変わらずの高い個人技に加え、司令塔として常に落ち着いてゲームコントロールをしている印象だった。メンタル面の成長は、父の正作氏も「いろんなキャリアを積んできて、慌てることがなくなりました。若い時はカーッときたら自分で行っていたところでも、うまくセルフコントロールできるようになっています」と評価していた。

チーム全体として、接戦で簡単なミスが散見された東京五輪では、最終戦後に今後のチーム課題を聞くと「勝つことに恐れず、気迫を出すことが必要だと思います」と答えていた東江。パリ五輪でも自身の最大の持ち味であるゴールへの貪欲な姿勢を貫き、背中でチームを引っ張りたい。

「彗星JAPAN」を新たな境地へ導けるか

琉球コラソン
試合終了後、琉球コラソンで主将を務める兄の太輝(左)とファンサービスに臨む東江

取材対応では、父と兄から力強いエールが贈られた。

正作氏「日本代表では、本当に苦しい時に彼の力が必要になってくると思います。しっかり準備をして、チームをまとめてほしい。パリの空で大きく羽ばたいてほしいです」

太輝「日本代表の中心でキャプテンとしてやっているので、家族としては非常に嬉しいことだし、誇らしいです。ぜひパリオリンピックで勝利を挙げてもらいたいなと思います」

パリ五輪におけるハンドボール男子の日程は7月25日〜8月11日。出場する12カ国が6チームずつの2グループに分かれて予選ラウンドを行い、上位4チームずつの計8チームが決勝トーナメントに駒を進める。日本代表の目標は、東京五輪を超える史上初の8強入りだ。

30歳という節目の年齢となった東江。自信を積み重ね、自らの立場が確立する「而立(じりつ)の年」とされる。21日の記者対応では「(パリ五輪で)皆さんに夢と感動を与えたいです」とも言った。さまざまな経験を経て、選手として成熟した状態で迎えるパリ五輪。ハンドボールが盛んな小さな島から日本屈指のプレーヤーに成長した東江が、「彗星JAPAN」を新たな境地に導いてくれることを期待せずにはいられない。

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