エンタメ,スポーツ
なぜ“夏春連覇”は難しいのか?センバツ滑り込み選出の沖縄尚学…快挙達成の鍵は「3人目の台頭」と「打力強化」にあり
3月19〜31日に兵庫県・阪神甲子園球場で開催される第98回選抜高校野球大会の開幕まで、あと1カ月ほど。沖縄からは、九州地区から2年連続で選出された沖縄尚学が出場する。
思いがけず舞い込んだ舞台だった。沖縄尚学は昨秋の九州地区大会で準々決勝敗退。一度はセンバツ出場への望みがほぼ消滅したかに見えた。しかし、その後の明治神宮大会で九州王者の九州国際大付(福岡県)が優勝したことで九州地区の選出枠が4から5に増え、5枠目に滑り込んだ。
選出された最大の要因は、昨夏の甲子園で初優勝をけん引した末吉良丞と新垣有絋のダブルエースの存在にある。2人とも2年生のため、いまも健在だ。1月30日に開かれた選考委員会では「充実した投手力を高く評価し、(九州大会の)準々決勝で敗れた他の3校を総合的に上回ると判断しました」との説明があった。
メディアでは、昨年のセンバツ王者で春連覇を目指す横浜(神奈川県)、投打ともにきわめてレベルが高い山梨学院、明治神宮大会を制した九州国際大付などとともに、優勝候補の一角に挙げられる。
ただ、戦前から続く甲子園の長い歴史を振り返っても、過去に夏春連覇を達成したチームは4校しかいない。それだけハードルが高いのだ。快挙達成の鍵は何か。選手や監督の言葉から探っていく。
世代替わりして迎えるセンバツ
甲子園の「連覇」にはいくつか種類がある。最もイメージがしやすいのは春夏連覇だろう。2010年にはトルネード左腕の島袋洋奨を擁した興南が達成しており、沖縄でもなじみがある。同校を含め、過去に7校が計8回(※大阪桐蔭は2012、2018年に2度達成)達成している。
その他に挙げられるのが春連覇、夏連覇、そして夏春連覇である。
この3つに共通するのが、世代を越えたチャレンジになることだ。センバツに選出された直後、夏王者として意識する部分はあるか、と問われた沖縄尚学の比嘉公也監督も「夏の優勝は3年生を中心に達成したものなので、センバツとは違うと考えています。なので、特別意識するものはありません」と語っており、異なるチームで戦う認識であることをうかがわせた。
沖縄尚学のように、最上級生を主体としたチームで甲子園で優勝するパターンがほとんどのため、その代がごそっと抜けた後も全国制覇を達成できるだけの力を維持するのは容易ではない。
特に春に関しては、新チームとなった直後の、まだ完成度が低い段階で都道府県の秋季大会とブロック大会で好成績を残す必要がある。出場数も、原則的に都道府県の代表が集う夏の49校に比べて少ない32校のみだ。「世代替わり」と「春」が絡む連覇は、その挑戦権を得ること自体のハードルが高く、最も難しいとされる。
春連覇を達成したチームは過去に3校、夏春連覇は4校だけだ。
この記事の主題となる夏春連覇の達成校は1930〜31年の広島商、1937〜38年の中京商(愛知)、1960〜61年の法政二(神奈川)、1982〜83年の池田(徳島)。他の3つの連覇は2000年代に入ってからも事例があるが、夏春連覇は40年以上も遠ざかっている。繰り返しになるが、それだけ難易度が高いのだ。
ちなみに、沖縄県勢で唯一、過去に夏春連覇の可能性があった興南は、2010年に県勢初の夏制覇を達成した後、秋の県大会は優勝したが、九州地区大会は惜しくもベスト8止まり。翌2011年のセンバツに出場することはかなわなかった。当時の興南と同じ成績ながら、センバツ“復活当選”を果たした沖縄尚学は「持っている」と言っていい。
「3人目の投手」田場、大城、饒平名に期待
快挙を成し遂げるためには、ひとつ前の代からチームをけん引してきた左腕の末吉良丞と右腕の新垣有絋が活躍することが最低条件となる。
末吉の武器は最速150キロの力のある直球と切れ味鋭いスライダー。「夏春連覇をできるのは自分たちだけなので、出るからには優勝を目標に全員でやっていきたいと思います」と意気込む。
平均球速の向上に向け、冬は上半身を中心に筋力強化を図った。ベンチプレスで上げられるマックスは95キロから105キロに増加。昨夏の甲子園、U-18日本代表の後、疲労の蓄積や周囲の期待が重なって一度は見失ったフォームも、年明けから徐々に取り戻しつつある。「状況に応じて三振を取ったり、バックと連係しながら打ち取ったりして、チームを勝たせるピッチングをしたいです」と見通した。
一方の新垣。「下半身のパワーを上半身が受け止められず、力が逃げていた」と、冬は同じく上半身の強化に着手した。体に一本筋が通ったようなきれいな姿勢から投げ込む最速146キロの直球と変化球が持ち味。30メートルの間隔を空けた投げ込みで体のバランスを整える。
目標も同じく夏春連覇。個人としては「末吉を越して、自分がエースを取ることを目標にやっています」と力強く語った。
ただ、全国制覇を成したこの二枚看板に関しては、全国で最も他校から研究されていると言っても過言ではない。だからこそ、比嘉監督は「この2人だけに頼らず、新たな投手でも勝ち上がっていけるような試合展開にしていきたいです」と展望する。
“3人目”の候補には、いずれも2年生右腕の田場典斗、大城諄來、饒平名麻貴人が挙がる。登板機会こそなかったが、田場と大城は昨夏の甲子園でもベンチに入っている。ウェルネス沖縄に4-0で勝利した昨秋の県大会決勝では、先発を務めた田場が4回、饒平名が3回、新垣が2回を投げ、完封リレーで頂点に立った。
比嘉監督が特に「出てきてほしい」と期待する田場は、最速141キロの威力ある直球にチェンジアップなどを織り交ぜて打ち取る。ただ、指揮官が「絶対的に抑えられるボールがないので、長いイニングはまだ投げられない」と評するように、全国レベルの打者をねじ伏せられるだけの勝負球がほしいところだ。
その他、1年生左腕の古波蔵滉も控える。昨年のセンバツでマスクをかぶった山川大雅主将はリードに磨きをかけ、投手陣の底上げに貢献したい。
目指すのは「低くて強い打球」
もう一つのテーマは打撃力の底上げだ。今センバツからは指名打者(DH)制が導入され、チーム全体の打力が試合結果に与える影響がより大きくなる可能性があり、今大会を占う要素でもある。
野手陣に関しては、ひとつ前の代からほぼ様変わりした。現2年生の中では昨夏の甲子園で山川と三塁手の玉那覇宝生がベンチ入りしたが、出場機会はなし。九州地区大会では2試合とも二塁、三塁まで走者を進める機会は多かれど、なかなか本塁まで返すことができず、いずれも1点止まりだった。
比嘉監督は「相手のエラーや四球も含めて出塁することはできるんですけど、そこから点を取るのがうまくない。どうしたら得点を挙げられるかに重点を置いてセンバツに入っていきたいなと思っています」と課題感を口にする。一方で「まだ何色にも染まるチャンスがある」と前向きなコメントも発しており、伸びしろの大きさを感じているようだ。
秋にリードオフマンを務めた山川は「全体的に体は大きくないので、長打というよりは内野、外野の間を抜くような低くて強い打球を徹底したいです」と理想を語る。バットを振る回数に特にノルマはないというが、冬は「一日中バッティング練習の日もありました」と打力に磨きをかけてきた。
当然のことではあるが、昨夏の王者という称号はセンバツでの好成績を約束するものではない。選手たちも、その現実をよく理解している。末吉は「また挑戦者という気持ちを持ちながら1試合1試合に臨んでいきたいです」と決意を口にし、新垣も「夏のことは意識し過ぎず、自分のやるべきことをしっかりできるようにしたいです」と足元を見つめる。
投手陣の層の厚さ、そして攻撃力の底上げ。この2つの課題をどこまで突き詰められるか。本番でかみ合うことができれば、沖縄尚学が勝ち上がる可能性は十分にあるはずだ。
あわせて読みたい記事



