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長嶺 真輝

長嶺 真輝

Bリーグ初制覇の原動力は「先人へのリスペクト」 岸本、桶谷HCの言葉に見る琉球ゴールデンキングスの“球団カルチャー”とは

悲願の初優勝を決め、ゴールドの紙吹雪の中でチャンピオントロフィーを掲げる琉球ゴールデンキングスのメンバー

Bリーグ初優勝の琉球ゴールデンキングス
5月28日、神奈川県の横浜アリーナ©️琉球ゴールデンキングス

指笛の甲高い音が鳴り響く横浜アリーナ。優勝インタビューに立った桶谷大ヘッドコーチ(以下、HC)が琉球ゴールデンキングスのブースターで埋まる真っ白なスタンドの方を向き、少しいたずらっぽい笑みを浮かべながら、両手を突き上げて言った。

「昔ね、伊佐むーさん(伊佐勉氏)が言ってたんです。本当に、沖縄の皆さん、おめでとうー!」

旧bjリーグ時代、自身が前回キングスのHCを務めていた時にアシスタントコーチ(AC)を担っていた盟友の伊佐氏が、その後にキングスHCとしてbj制覇を達成した時に用いた言葉である。長らく応援してきたブースターにとっては、強く心を揺さぶられる場面だっただろう。

「最高の相手」千葉ジェッツに2連勝 セカンドユニットが躍動

Bリーグ初優勝の琉球ゴールデンキングス
勝負強い活躍でファイナル賞に輝いたコー・フリッピン©️琉球ゴールデンキングス

プロバスケットボールBリーグ1部のチャンピオンシップ(以下、CS)ファイナルが27、28の両日、神奈川県の横浜アリーナで行われ、西地区1位のキングスが東地区1位の千葉ジェッツ(以下、千葉J)に2連勝し、悲願の初優勝を達成した。

初戦はダブルオーバータイムにまでもつれる死闘を96ー93で制し、第2戦は21得点、8アシストを記録して「ファイナル賞」に輝いたコー・フリッピンの活躍もあり、88ー73で快勝した。初めてファイナルに進出しながら、宇都宮ブレックスに2連敗した昨シーズンの悔しさを見事に晴らした。

3月の天皇杯決勝で敗れ、今シーズン53勝7敗と歴代最高勝率を記録した「最高の相手」(桶谷HC)の千葉Jを倒した大きな要因は、フリッピン、牧隼利、松脇圭志、CSのMVPに輝いたアレン・ダーラムらを中心としたベンチスタートの「セカンドユニット」の強さだ。ベンチポイントで第1戦は45対4、第2戦は45対17と圧倒。誰が出ても得点力が下がらず、チームのアイデンティティーである高いディフェンスの強度もシリーズを通して維持した。

試合後、桶谷HCが「見てください、今日のセカンドユニット。最高ですよ。僕たちはシーズンを通してチームで戦うことをやってきて、その積み重ねがファイナルで出たと思います。本当に感無量です」と優勝インタビューで語ったように、個々が高い能力を持ってはいるが、それに依存し過ぎることなく、ボールをシェアしながら戦うスタイルを貫いた結果の戴冠となった。

「会場が沖縄アリーナに見えた」元選手の青木氏を意識か

Bリーグ初優勝の琉球ゴールデンキングス
シャンパンファイトで今村佳太やジャック・クーリーらにお酒を浴びせられる桶谷大HC

今シーズンに限らず、キングスが球団創設時から積み上げてきたものが、もう一つある。「沖縄をもっと元気に!」という活動理念を土台に、bjリーグに参入した2007-08シーズンからの16年間で築いた強固な“球団カルチャー”だ。

参入2季目の08-09シーズンから11-12シーズンにキングスを2度のbj制覇に導き、一度は球団を離れたが、21-22シーズンから再びキングスで指揮をとり始めた桶谷HC。優勝インタビューでは、こうも言った。

「この会場が、沖縄アリーナに見えました」

この言葉、キングスがbjリーグで初優勝を飾った08-09シーズンのファイナル終了後、当時選手だった青木勇人氏(現横浜ビー・コルセアーズHC)が言った「有明コロシアムの天井に、沖縄の空が見えた」という名言とかぶって聞こえた。試合後の会見で、冒頭の伊佐氏の言葉も含め、なぜこれらのコメントをあの場で選んだのかを直接聞いてみた。

「キングスの先人の皆さんへのリスペクトです。優勝できたのは、キングスという素晴らしいカルチャーを作り続けてくれたコーチ、選手、スタッフのおかげです。メディアの皆さんもそうですし、県民みんなが一緒になって作り上げたチームが優勝したので、今この瞬間の自分達だけでなくて、そういう人たちが僕たちと戦ってくれてたと思っています。そういったリスペクトを込めて、あの言葉を使わせていただきました」

球団の創設期を知る桶谷氏ならではの答えである。12-13シーズン途中に加入し、チーム最長となる生え抜き11年目の岸本隆一(名護市出身、北中城高校ー大東文化大学卒)も”先人“への思いを共有する。以下は、試合後会見の第一声だ。

「やっとここまで辿り着いて、うれしい気持ちでいっぱいです。それと同じく、今日という日に至るまで、いろんな人が力を尽くして戦ってきたと思うので、感謝の気持ちもあります。自分たちにとって、沖縄にとってすごく意味のある優勝になったと思います」

”日本一”のブースターを”日本一”に

Bリーグ初優勝の琉球ゴールデンキングス
外角からシュートを放つ岸本隆一©️琉球ゴールデンキングス

今回のファイナルには、第1戦が11,410人、第2戦はBリーグ史上最多となる13,657人もの観客が訪れた。客席はキングスファンの白色と、千葉Jファンの赤色で埋め尽くされ、リーグでも熱狂的で知られる両チームのブースターが絶え間なく「ゴーゴーキングス!」「ゴージェッツ!」などと声を枯らした。優勝決定後、白色のスタンドからは指笛が鳴り響き、カチャーシーを舞う人の姿もあった。

リーグからは、ある興味深い数字も発表された。チケットを買った人の中で「沖縄に住所がある人の数と割合」である。この人たちは、沖縄から飛行機で会場に来た可能性が高い。第1戦は1,860人で全体の約18%、第2戦は2,190人で全体の約17%。これだけの人が沖縄から海を超えて応援に駆け付けたことは驚きだ。

さらに会場を見ると、ほぼ白と赤に二分されていたため、両日ともキングスファンだけで5、6千人はいたことが推察される。つまり、3、4千人は沖縄以外に住所がある人なのである。沖縄出身者や沖縄に所縁のある人、県外在住者でキングスファンの人などだろうか。この数字を見るだけでも、キングスがいかに幅広い人たちから愛されている球団かが分かる。

「横浜アリーナに来て、五感を使い、自分たちの後押しをしてくれて、本当に力になりました。この場所に居合わせなくても、沖縄から、そして全国各地から自分たちのことを応援してくれた人がいたと思う。優勝できてうれしいし、それと同じくらい、喜んでくれる人がいることにも価値を見出してます。恩返しの気持ちもあり、感謝しています」
 
岸本がそう言えば、桶谷HCも万感の思いを口にする。

「試合中から沖縄アリーナの雰囲気があると感じていて、キングスの声援しか聞こえませんでした。それくらい自分自身も、選手も気持ちが乗れていました。ブースターが、自分たちがバスケをしやすいように雰囲気を変えてくれた。ブースターさんが喜んでる光景を見て、やっと、日本一のブースターを日本一にさせたあげられたことをうれしく思いました」

岸本、しげさんらの「背中を今でも追い続けてる」

Bリーグ初優勝の琉球ゴールデンキングス
今村佳太から祝福の酒を浴びせられる岸本隆一

bjリーグでは最多4度の優勝を果たしたキングスだが、日本人トップ選手の多くが所属していた旧NBL(ナショナルバスケットボールリーグ)とbjリーグが統合し、2016年に幕を開けたBリーグでは初のタイトルとなる。bjでも2度の優勝を経験した岸本に、当時と今回の優勝で感じる部分に違いがあるかを聞いてみた。答えはこうだ。

「うれしいという意味では同じくらいかなと思います。ただ、bj時代に優勝した時は、正直核となる選手に着いて行けばいいかなという気持ちもどっかしらにある中でプレーしていたけど、今は年齢も上になって、こうやって優勝を勝ち取ることができたことは違った意味でうれしいです」

試合後には、同年代である元キングスの山内盛久(現三遠ネオフェニックス)らからも連絡があったという。偉大な先輩たちの名前も挙げ、顔をほころばせながら、続けた。

「しげさん(金城茂之)やジェフ(ニュートン)、マック(アンソニー・マクヘンリー)とか、名前を挙げたらきりがないんですけど、今でも彼らの背中を追い続けてる意識があります。その方達がこんな気持ちで試合に臨んで、こんな気持ちで優勝を成し遂げたんだと今日少し感じることができたので、すごく誇らしい気持ちです」

岸本はよく、これまでキングスに所属してきた歴代の選手やコーチ、スタッフについて触れる。ファイナル進出決定を決めたCSセミファイナルの第2戦後にも「今まで一緒にプレーしてきた選手、コーチ陣がたくさんいる。自分がチームに残り、長くプレーしているからには、責任を持ってプレーしなきゃといつも思っています。そういう方々の気持ちを必ず優勝という形に変えられるように、ファイナルを戦っていけたらと思います」と強い覚悟を語っていた。

沖縄という地域に深く根を張り、積み上げてきた多くのレガシーを今の選手、HCがしっかりと受け継いでいるキングス。小さな離島県のチームながら、8千人超を収容する沖縄アリーナを満員にするほど、Bリーグでも集客力が際立っている。その存在感は沖縄にとって一スポーツ球団の枠を越え、一つの”文化“にまで昇華されているように感じる。悲願の日本一に輝いた「県民みんなが一緒になって作り上げたチーム」(桶谷HC)は、これからも沖縄の歴史と共に歩んでいくのだろう。

琉球ゴールデンキングス_エース今村佳太

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