沖縄経済
観光のスペシャリストが描く沖縄観光の未来【シリーズ③深刻な人手不足…解決に向けたベストアンサーは?】(第34回沖縄懇話会ラウンドテーブル パネルディスカッション)
沖縄と本土の経済格差を埋めるために、県内外の経済界のリーダーが集い議論する沖縄懇話会。
1990年の設立以降、「実現する力」をモットーに、沖縄サミットの誘致やOIST(沖縄科学技術大学院大学)の創設、那覇空港第2滑走路の新設などに繋げてきた実績がある。
2024年1月16日に行われた34回目となるラウンドテーブルでは、「観光と地域経済の発展~世界から選ばれる持続可能な観光地を目指して~」というテーマのもと、観光のスペシャリストによる白熱した議論が繰り広げられた。
その内容を、OKITIVEではシリーズでお伝えしていく。
シリーズ第3弾となる今回のテーマは、「深刻な人手不足…解決に向けたベストアンサーは?」
パネリスト紹介
小西美術工藝社社長 デービッド・アトキンソン 氏
森トラスト社長 伊達美和子 氏
沖縄観光コンベンションビューロー会長 下地芳郎 氏
ファシリテーター沖縄テレビアナウンサー 稲嶺羊輔
稲嶺
続いて3つ目のテーマに参りたいと思います。
深刻な人手不足…解決に向けたベストアンサーは?
稲嶺
アトキンソンさんは既にフリップにご回答を記入されているようですね。
アトキンソン氏「多様性」
アトキンソン
このテーマに進む前に、これだけ申し上げておきたいと思います。
人手不足の問題にもつながってきますので。
私が基調講演で欧米豪(欧米とオーストラリアの観光客をターゲットにする)という話をしましたけれども、日本としても欧米豪戦略に力を入れるっていう話がある中で、欧米豪だけをやればいいということではない。
メインターゲットではないんです。
まんべんなく世界中から来てもらうという戦略の中で、欧米豪を加えたという意味です。
先ほどのテーマ(沖縄観光の「ここがもったいない!」)の国際通りの話もそうですけど、多様性が重要であるわけですから、アクティビティに関してもいろんなメニューがあって、その一つひとつに一定の観光客がつくということです。
美食で富裕層を呼び込むというお話が先ほど伊達さんからありましたけども、美食は富裕層にとっては不可欠なものであると同時に、美食だけで良いということではないんです。
いろんな人がいろんなものが好きで、要するに偏重するのはあまり良くない。
例えば海外では、くさいにおい豆腐が有名な場所があったりして、その存在を知っている身としては、まずいものでも楽しみの一つとしていけるんです。
世界的にはやっぱり、まずいと言われるものが、どこまでまずいのかと確認したい人っていうのは、一定数いるんです。
ですから、何一つ否定しない。
どこまで活かせるのか、何を選択するのかっていうことはあるんですが、そういった観光資源になりうるものを多く用意して、世界から幅広く来てもらった方が年間の稼働率が平準化されます。
日本を訪れる観光客には、大陸や国ごとに季節による偏在性が存在します。
一部の地域からの観光客が集中し偏在性が強まってしまうと、観光業の年間平準化を妨げてしまいます。
これは観光業に従事する人の労働生産性の悪化や非正規雇用の多さにも繋がりますし、安定した雇用を生み出すためには重要な課題です。
いまの時点で慢性的な人手不足と言ってもですね、今後は人口の減少によって更に人手不足が加速していくことが証明されています。
じゃあ今後どうすればいいのかと考えると、これはもう労働環境の改善しかないんです。
そのためには、訪れる観光客の多様化による観光業の年間平準化。
そのために、コンテンツも多様化する必要があるわけです。
国内の生産年齢人口は今後も減り続けていくことが証明されている。
そうであるならば、いま確保して将来に備えるしか方法は無いと思います。
私からは以上です。
稲嶺
今後も人手が減り続けるという中で、さまざまな視点で考えていかなければなりませんが、伊達さんはどういったお考えでしょうか?
伊達氏「分母を増やす、代替手段の取込」
人手不足の解消に向けたベストアンサーっていうのはないですよね。
残念ながら働き手の分母が減ってくわけですから。
ただ、2019年は59万人一応いたと言われているホスピタリティ産業の就労者は、コロナ禍で46万人に減りましたが、2023年の秋に概ね58万人ほどと、同水準までは戻ったと言われています。これは朗報だと思うんですね。
けれども2019年でも足りなかったので、やはりホテル業界の皆さんは「足りない足りない」という意識を持っています。
その中で取り合いになってはしまうんですけれども、観光業界に来ていただくためには、先ほどのアトキンソンさんの基調講演の中であったように、低賃金、長時間労働、あと季節性による非正規雇用の多さなど、世の中で言うところのブラックな産業になっていることが課題ですよね。
これをホワイト産業化しなきゃいけないってことだと思うんです。
そう考えた時に、どうやって業界にいらっしゃる方のキャリアを形成してあげるのかというビジョンを示してあげるということで、当然付加価値を上げながら給与も上げていかなければいけない。
さらにはその給与だけではなくて、さまざまな研修の機会を提供するであるとか、そういったことをしていかなければならない。
もしくはいまホテルでもそうなんですが、投資すべきところは表だけじゃないんですね。
やっぱりバック部門にも投資をしていかなければいけないっていうことが挙げられると思っています。
そういった努力によって私は沖縄に限らずなんですけども、業界全体としてのホワイト産業化というものをしていくべきだろうというふうに思っています。
一方で、どうしても人手が足りないんですね。
そんな中で、やはり人ではなくてもできる業務はロボットであるとか、IT技術であるとか、AIも随分進化していますので、いわゆる産業としての観光DXを進めることによって少しでも生産性を上げていくべきだろうと。
これもやはり投資なんです。投資無くしてはできないというところだと思います。
3つ目は、やはり外国人の人材をもっと有効活用していかなければならない。
ホテル産業というのは特定技能の12分野の中に入っていますけれども、特定技能の方々がまだ2パーセントぐらいの採用率だと言われています。
1万人という枠があるにもかかわらず、活用していないのがこの産業の問題であって、その存在をポジティブに受け止めながら、共存できる環境作りというのを早く構築していかなければならないと思います。
稲嶺
アジアからの人材もいま注目されていますけれども、その辺も含めて下地さんはどういったご回答でしょうか?
下地氏「ツーリズムアカデミー、二刀流人材の育成を」
下地
私は「ツーリズムアカデミー、二刀流人材の育成を」と書きました。
もちろん今お話があった通り短期的な喫緊の課題である人材不足に関しては給与の改善だとか働き方改革だとか、デジタルの部分の活用とかっていうのは当然やっていかないといけないわけですけども、沖縄の将来を見たときにですね、やっぱりもう一度、観光人材育成の教育プログラムをしっかり再構築する必要があるというふうに思っています。
この中で「二刀流」と言ったのは、今までの観光におけるホスピタリティのある人材に加えてですね、やっぱりこれからはITの技術をより効果的に使いこなせる人材が必要だと思っています。
沖縄の人々のホスピタリティというのは、これまでも非常に高く評価されています。
これをベースにしながら、ロボット、AI等含めていろんな技術が進歩していきますので、これをしっかり学んで活かせるような、デジタルホスピタリティという部分を兼ね備えた人材を作っていくことで、中長期的な対応ができると思っています。
このツーリズムアカデミーは大人だけをイメージしているわけではなくて、子どもから社会人の学び直しまで含めてですね、沖縄が人材供給の拠点となるための場所。
ダイナミックにアジアの観光人材をここから輩出するんだというふうな大きなプロジェクトとして、これから構築していく必要があるのではないかなというふうに思っています。
稲嶺
ITをからめた人材育成、これ非常に興味深いテーマだなと思ったんですが、単純にDX化を進めて省力化するというよりも、成長性の高い分野に人材を投入できることが大きなメリットになりそうですね。
下地
そうですね。
世の中はもう既に変わってきていますし、人が減る一方でテクノロジーが発展していくという時に、どういうふうな観光人材を育てていくのかっていうところは、従来の発想を大きく変えていかないといけないわけです。
インバウンドを振興するにあたって、テクノロジーで代用できる部分もありますけども、やはり世界中の人を惹きつける対話だとか、このノウハウだとかっていうふうな部分も含めて、やはり教育機関の重要性っていうのは極めて大事になると思います。
沖縄にはOISTという科学技術の大学院大学ができていますけれども、沖縄の経済社会を考えたときに今後も観光が大きな役割を果たすのであれば、ツーリズムアカデミーという分野でどういった科目をやるべきなのか、どういった教員を呼ぶべきなのかということをもう少し今のうちから議論をしていく必要があると思っています。
稲嶺
母数としての人材確保に加え、基幹産業である観光業をさらに盛り上げていくためにはプロフェッショナル人材の育成も今後重要になってきそうですね。ありがとうございました。
Information
沖縄テレビでは、2024年3月10日(日)午後4時から、第34回沖縄懇話会ラウンドテーブルの模様を総集編でお送りします。
ぜひご覧ください。
パネリスト プロフィール
デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社 社長
元ゴールドマン・サックス証券 金融調査室長。日本の伝統文化を守りつつ文化財保存をめぐる行政や業界の改革への提言を行っている。国の観光戦略実行推進タスクフォースの一員としても手腕を発揮した。
伊達美和子 森トラスト 社長
2011年に森トラスト・ホテルズ&リゾーツ社長、2016年に森トラスト社長就任。外資系ホテルの誘致などを積極的に手掛ける。経済同友会副代表幹事、日本ホテル協会理事。
下地芳郎 沖縄観光コンベンションビューロー 会長
沖縄県庁に入庁後、初代香港事務所長として、アジア全般の観光客誘致などを担う。退職後は琉球大学観光産業科学部教授に就任し、学長補佐・学部長を歴任。2019年より現職。
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